IT業界におけるキャリアや年収は、スキル・経験などに基づいた実力によって評価されるのが一般的です。実力を評価する1つの判断基準として、資格が重視される部分もあるといえます。
とりわけ転職活動においては、実務経験と資格の両方をアピールすることによって、採用に結び付けていけるでしょう。資格の取得はキャリアアップだけでなく、それまで培ってきた知識や経験を体系的に理解する効果も期待できます。
この記事では、エンジニアにおすすめの資格を職種別に紹介します。今後のキャリアパスにつなげる足がかりとして、資格の取得を検討してみましょう。
IT系の資格は大きく2つに分けられる
IT系の資格は数多く存在しますが、「国家資格」と「ベンダー資格」の2つに大きく分けられます。それぞれどのような特徴があるのかを紹介します。
国家資格
国家資格は名前のとおり、国によって認定される資格を指します。資格のなかでも信頼度が高く、転職時などに評価をされやすい資格だといえるでしょう。
日本におけるIT系の国家資格は、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が行い、経済産業省が認定をしている「情報処理技術者試験」などが有名です。国家資格は多くの人が受けるものなので認知度が高く、アピールにつながりやすいはずです。
ベンダー資格
ベンダー資格とは、ハードウェアやソフトウェアなどを提供している企業が認定している資格です。ベンダーが提供する製品についての深い知識やスキルが問われるものであり、製品に関するプロフェッショナルなスキルを示すことが可能です。
ただし、スキルの証明がベンダーの提供する製品技術に依存することになるため、別のベンダーの製品を使っているような現場ではあまり評価されないこともあります。具体的な資格としてはAmazonが提供するクラウドサービスに関する専門知識を問う「AWS認定」や、Microsoft製品に関する知識と技能をレベル別に認定する「マイクロソフト認定資格プログラム(MCP)」などがあります。
【職種別】おすすめの資格23選
IT系の資格取得を検討する際は、職種別に取るべきものを把握しておく必要があります。せっかく難関資格を取得しても、実務で生かせなければ評価のアップにはつながりにくいからです。
主な資格を職種別にまとめると、次のとおりです。
【職種別】おすすめの資格の種類
職種 | おすすめの資格 |
システムエンジニア(SE) | ・基本情報技術者試験・応用情報技術者試験・システムアーキテクト試験 |
ネットワークエンジニア | ・シスコ技術者認定・ネットワークスペシャリスト試験 |
サーバーエンジニア | ・LinuC(リナック)・LPIC |
データベースエンジニア | ・オラクルマスター・データベーススペシャリスト |
セキュリティエンジニア | ・情報セキュリティマネジメント試験・情報処理安全確保支援士 |
クラウドエンジニア | ・AWS認定資格・Microsoft Azure認定試験・Google Cloud認定試験 |
AIエンジニア | ・G検定・Python3 エンジニア認定データ分析試験・E資格 |
フロントエンドエンジニア | ・HTML5プロフェッショナル認定試験・ウェブデザイン技能検定2級 |
バックエンドエンジニア | ・PHP技術者認定試験・Ruby技術者認定試験・Rails技術者認定試験・Javaプログラミング能力認定試験 |
それぞれの資格について難易度なども含めて、さらに詳しく解説します。
システムエンジニア(SE)向けの資格
システムエンジニアは顧客の要望をヒアリングし、適したシステムを設計・開発するエンジニアのことです。主な仕事内容は、実装すべき機能の概要を明らかにする「要件定義」、システムの機能や仕様などの構成を設計する「基本設計」、構築したシステムを「運用・保守」することなどが挙げられます。
豊富な実務経験とシステムに関する理解力、構築するスキルなどが求められるので、次のような資格の取得がおすすめです。
・基本情報技術者試験 ・応用情報技術者試験 ・システムアーキテクト試験 |
「基本情報技術者試験」は独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が行っている試験であり、IT業界に関わるあらゆる職種の登竜門として位置付けられています。初めてIT系の資格を取得する方やITに関する全体的な知識を得たい方に向いているでしょう。
難易度はそれほど高くなく、エンジニアとしての基本的な知識や技術など初歩的な部分を理解していれば問題ありません。さらに、知識を深めたいという方は「応用情報技術者試験」に挑戦してみるのも良いでしょう。
この2つの資格を取得していれば、エンジニアとしての業務で困ることは少なくなるはずです。また、「システムアーキテクト試験」は、システム開発において要件定義や設計などの上流工程をリードするために必要なスキルを保持していることを証明できる資格です。
資格の難易度は高く、試験も年に1回しか行われないので計画的な学習が必要になります。上流工程を担当するエンジニアとして、広範なスキルを習得できるので挑戦する価値は高いといえるでしょう。
ネットワークエンジニア向けの資格
ネットワークエンジニアとは、ネットワークの設計・構築・運用・保守などの業務を担うエンジニアを指します。具体的にはルーターやスイッチなどのネットワーク機器を用いて、ネットワークシステムを設計・構築し、顧客の要望に応じてメンテナンスなどを行う仕事です。
ネットワークエンジニア向けの資格として、次の2つが挙げられます。
・シスコ技術者認定 ・ネットワークスペシャリスト試験 |
「シスコ技術者認定」は、シスコシステムズ製品に関する技術者を認定するベンダー資格です。全9種類5つのレベルで試験は行われるので、自分のスキルに応じて受験することができます。
「ネットワークスペシャリスト試験」は、ネットワークに関する固有の技術を活用して、システムの企画・要件定義・開発・運用・保守の技術支援を行う方向けの国家資格です。合格率は10%台なので難易度が高い資格ですが、ネットワークスペシャリスト試験に合格することで、人事評価や転職にプラスとなるでしょう。
サーバーエンジニア向けの資格
サーバーエンジニアとは、サーバーの設計・構築・運用・保守を担当するエンジニアを指します。システムの目的に応じてサーバーを増強したり、スペックを変更したりすることが主な仕事です。
また、サーバーの故障対応や原因調査、監視業務なども担います。
・LinuC(リナック) ・LPIC |
「LinuC」はLinux技術者としてのスキルを認定する資格であり、日本のみで行われています。国内向けの資格であるため、海外企業では評価されないこともあるので注意しましょう。
一方、「LPIC」も同様にLinux技術者としてのスキルを認定するための資格ですが、全世界共通で行われている認定試験であるという点に違いがあります。どちらの資格も、Linuxのインストールや基本操作、Linuxサーバーの構築・運用、ネットワークの設計・構築などのスキルを客観的に証明するものなので、サーバーエンジニアとしての仕事に役立つでしょう。
データベースエンジニア向けの資格
データベースエンジニアとは、データベースの設計・構築・管理・運用を担うエンジニアを指します。最適なデータベースを設計・構築するとともに、データ利用や情報セキュリティの管理などの業務を担う仕事です。
データベースエンジニア向けの資格としては、次の2つが挙げられます。
・オラクルマスター ・データベーススペシャリスト |
「オラクルマスター」は、オラクル社が提供するオラクルデータベースを用いたデータベースの構築・運用・チューニングの知識が問われる資格です。法人向けのデータベース製品として高いシェアを占めているので、資格を取得することで評価を高められるはずです。
「データベーススペシャリスト」の試験は、IPAが実施する情報処理技術者試験の1つであり、データベースエンジニアにとっては最も難しい試験となります。しかし、ビッグデータやデータサイエンスの領域で注目度が高くなっている資格なので、挑戦する意味は大きいといえます。
セキュリティエンジニア向けの資格
セキュリティエンジニアは、企業のセキュリティ全般に関わる技術を担当するエンジニアを指します。セキュリティ対策の立案や機器などの選定などを担うのが役割です。
セキュリティエンジニアとして役立つ資格は、次の2つがあります。
・情報セキュリティマネジメント試験 ・情報処理安全確保支援士 |
「情報セキュリティマネジメント試験」は、サイバー攻撃などの脅威から組織を守り、情報セキュリティの確保に貢献するスキルを認定するための国家資格です。情報セキュリティに関する計画・運用・評価・改善といった基本的なスキルが身についているかを試されます。
「情報処理安全確保支援士」も、サイバーセキュリティの知識や技術を証明するための資格であり、難易度は高めの資格です。自衛隊やサイバー犯罪捜査官の選考条件に含まれるなど、信頼性のある資格だといえるでしょう。
クラウドエンジニア向けの資格
クラウドエンジニアは、クラウドコンピューティングの設計・構築・運用・保守を担当するエンジニアです。サーバーやネットワークなどのインフラ環境を仮想空間で構築する企業が増えているので、クラウドエンジニアに対する需要が高まっています。
クラウドエンジニア向けの資格として、次の3つが挙げられます。
・AWS認定資格 ・Microsoft Azure認定試験 ・Google Cloud認定試験 |
「AWS認定資格」は、Amazonが提供しているAWSというクラウドサービスを十分に使いこなせるかをチェックするための資格です。認定レベルは4段階設けられているため、自分のスキルレベルなどに応じて選んでみましょう。
「Microsoft Azure認定試験」は、マイクロソフト社が認定する資格であり、Microsoft Azureに関する知識やスキルが問われる資格です。全部で9つの分野、4つのレベルで構成されている資格なので、学習レベルに応じて適したものを受験してみましょう。
そして、「Google Cloud認定試験」はGoogle Cloudを使ってシステムを設計したり、さまざまなサービスを運用したりするためのスキルを問うための資格です。Google Cloudはさまざまな用途で使われているので、資格を取得することでクラウドを活用した開発プロジェクトなどにも携われるチャンスが出てくるでしょう。
AIエンジニア向けの資格
AIエンジニアは、AIに関する知識や技術を活用して、データの分析やビジネスへの提案、システム開発などを担うエンジニアを指します。近年、金融業や製造業などさまざまな業界でAIの利活用が求められているため、AIエンジニアに対する需要が高まっています。
AIエンジニアの仕事に役立つ資格としては、次の3つが挙げられます。
・G検定 ・Python3 エンジニア認定データ分析試験 ・E資格 |
「G検定(ジェネラリスト検定)」は、ディープラーニングを事業に生かすための知識を持っているかを確認するための試験です。試験の合格率は60~70%台で推移していますが、AIやデータサイエンスに関する十分な知識と理解力を持たないと難しく感じるので注意が必要です。
「Python3 エンジニア認定データ分析試験」とは、Pythonの基本的な知識やデータ分析に関するスキルが問われます。「認定基礎試験」と「認定データ分析試験」の2種類があり、認定データ分析試験のほうが難易度は高いので、きちんと準備を整えてから試験に臨みましょう。
そして、「E資格」はディープラーニングに関する知識やスキルを問う資格であり、AIエンジニアに不可欠な能力を証明できるものです。世界初のAIエンジニアを認定する資格ともいわれており、注目度が高くなっています。
フロントエンドエンジニア向けの資格
フロントエンドエンジニアは、ユーザーが最初に目にする部分(ログイン画面やホーム画面など)を構築するエンジニアを指します。HTMLやCSS、JavaScriptといったプログラミング言語を駆使して、見やすい画面を構築していくのが主な仕事です。
フロントエンドエンジニア向けの資格としては、次の2つが挙げられます。
・HTML5プロフェッショナル認定試験 ・ウェブデザイン技能検定2級 |
「HTML5プロフェッショナル認定試験」は、IT業界で求められる知識を体系的に問われる資格です。Webコンテンツ制作に関する基礎力を測る「レベル1」と、WebアプリケーションやWebコンテンツの開発・設計力を測る「レベル2」に分けられます。
レベル1に関していえば難易度はそれほど高くありませんが、技術寄りの出題であるため、しっかり学習をしておかないと難しく感じる場合があるでしょう。レベル2はレベル1と比べて、JavaScriptを用いたプログラミング、コンテンツ実装の内容が大きく増えるため、プログラミングの基礎知識がなければ難易度が高いと感じるかもしれません。
「ウェブデザイン技能検定2級」は、Webデザインに関する試験であり、年によって変動はありますが合格率は30~40%程度です。誰でも受験できるわけではなく、Webデザイナーとして2年以上の実務経験があることやウェブデザイン技能検定3級に合格していることなどが条件となっているので注意しましょう。
バックエンドエンジニア向けの資格
バックエンドエンジニアは、フロントエンドエンジニアとは対照的な仕事であり、データの取り扱いに関する部分の実装を担うエンジニアを指します。主な仕事内容としては、サーバーの構築・プログラムの開発・保守・運用などが挙げられます。
バックエンドエンジニア向けの資格としては、次の4つが挙げられます。
・PHP技術者認定試験 ・Ruby技術者認定試験 ・Rails技術者認定試験 ・Javaプログラミング能力認定試験 |
上記はいずれもプログラミング言語に関する試験であり、スキルに応じて難易度が分かれているので、学習レベルによって自分に合ったものを受験してみましょう。技術者としてのスキルの証明を客観的に行える資格なので、地道に取得していくことでエンジニアとしてのキャリアを積むことに役立つはずです。
エンジニアの資格を取得する3つのメリット
エンジニアとして資格を取得するメリットはさまざまあります。ここでは主に3つの点から、資格取得のメリットを紹介します。
知識やスキルを客観的にアピールできる
エンジニアがIT系の資格を取得していると、その分野における一定の知識やスキルがあることの証明となります。第三者から見て客観的な評価を得やすくなるため、転職活動などでも有利になるでしょう。
実務経験がない未経験者ほど、資格を取得しておくことで熱意や関心をアピールできる材料として活用できるはずです。
スキルの向上やキャリアアップに役立つ
エンジニア向けの資格は数多くありますが、いずれの資格も業務で必要となる知識やスキルを身につけられる内容となっています。そのため、資格を取得するための学習を通じて、業務に必要な能力を体系的に習得できるでしょう。
経験者にとってはこれまでの仕事の振り返りになりますし、未経験者にとっては業務に関する基礎的な知識を得られます。スキルの向上やさらなるキャリアアップにつなげていけるので、役立つ場面は多いといえるでしょう。
年収アップにつなげられる
エンジニアの仕事は資格がなくてもできますが、実務においては専門知識が問われる場面が少なくありません。難易度の高い資格を取得していれば、参画できるプロジェクトが多くなり、必然的に年収アップにもつながりやすいでしょう。
希少価値の高い資格ほど人材が不足しているため、年収が高くなる傾向があります。資格取得を通じて、自身の市場価値を高められる点が大きなメリットです。
エンジニアの資格取得を目指すときのポイント
エンジニアの資格取得を考えるなら、ポイントを押さえて学習を進めていくことが大事です。どの資格を受験するのか選ぶ際の参考にしてみてください。
取得する資格を絞り込む
前述のとおり、エンジニア向けの資格は数多く存在しているので、取得する資格を早い段階で絞り込むことが大切です。そのためには、どの方向でキャリアを築いていきたいかを明確にする必要があります。
将来の働き方も考えて資格取得を目指していけば、自ずと学習も継続しやすくなるでしょう。まずは学習を始める前に、エンジニアの職種の種類や求められる資格などをチェックし、自分の希望を照らし合わせて絞り込んでみましょう。
初級レベルやマイナー資格は避ける
エンジニアとして目指すべき方向性が決まったら、どのレベルの資格を取るかを決める必要があります。実力に見合わない資格の勉強を始めてしまうと、途中で挫折する恐れがあるので注意が必要です。
一方で、初級レベルの資格を取得しただけで学習を止めてしまうと、人事評価などにおいてそれほどプラスになりません。また、マイナー過ぎる資格を取得しても、転職時に有利にはならないでしょう。
ただし、目指すべきキャリアをしっかりと決めたうえで、それほど難易度が高くない資格を選ぶのは有効な手段でもあります。未経験者向けの資格を取得したら、少しずつ難易度の高い資格にも挑戦してみましょう。
面接では取得理由もきちんと伝える
転職時の面接においては、単に資格を取得していることだけをアピールしても評価につながらない部分があります。なぜ取得しようと思ったのかの理由も添えて伝えることが大事です。
エンジニアとして携わりたい仕事があるから、計画的に学習を進めているといった点を上手にアピールできれば、プラスの評価を得やすくなるでしょう。
エンジニア向けの資格を学習する方法
エンジニア向けの資格を学習する方法として、スクールに通ったり独学で勉強したりすることが挙げられます。それぞれどのようなメリット・デメリットがあるのかを解説します。
専門学校やスクールで勉強する
資格取得の必要性は感じていても、自分で学習を進めるのが難しいと感じている方は、実績のある専門学校やITスクールに通ってみるのも1つの方法です。資格の種類によっては難易度が高く、一人で勉強しているだけでは理解が追いつかないものもあるでしょう。
学習でつまずきやすいポイントを講師に質問できれば、丁寧な解説が受けられ、効率の良い学習へとつなげていけるはずです。ただし、スクールなどで学習するには一定の受講料がかかるので、費用対効果を考えながら各スクールを比較することが大事です。
オンラインセミナーや動画サービスを活用する
エンジニア向けの資格取得を目的としたオンラインセミナーや動画サービスなどが、多数展開されています。単にテキストで学習するよりも、視覚的な情報をうまく取り入れるほうが学習効果を高められるはずです。
スクールなどに通うよりもコストも抑えられますし、スキマ時間を活用して学習を進められる点がメリットだといえます。運営元のコンテンツの充実度やアプリなどの使いやすさを比較して、自分に合ったサービスを選んでみましょう。
独学で勉強する
資格試験向けの参考書や問題集などが出版されていれば、独学で勉強を進めることも可能です。難易度がそれほど高くない資格であれば、コツコツと地道に学習を進めて、独学で資格を取ってみるのも良いでしょう。
電子書籍のテキストなら、Webに接続できる環境さえあれば、いつでも好きなときに場所を選ばずに学習できます。自分の学習スタイルに合わせて、最適なものを探すのも大事だといえます。
まとめ
エンジニアとしてIT系の資格取得を目指すのは、スキルの向上や年収アップにつなげられます。また、転職時のアピールポイントにもなるので、職種に合った資格を選んでみましょう。
資格の種類によって難易度はさまざまなので、学習計画や学習方法も含めてきちんと検討していく必要があります。この記事で紹介した内容を参考にして、自分に合った資格に挑戦してみましょう。
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Written by アクラボ Brandマーケティング Room.